恋人の聖地 宇多津町 令和相聞歌

過去の結果

第2回(令和2年度)結果発表

≪第2回(令和2年度)テーマ≫

※各受賞作品の順番は投稿ナンバー順となります。

最優秀賞

始まりは初雪の日の滑り台

GONZA

選評

二人の記憶の始まりの場面。「始まり」と「初雪」、二つの違った字を用いる工夫も良い。初雪が降る度に、「滑り台」のキンと冷えた感触も身に蘇ってくるのでしょう。冷たさの中で、心に灯をともしてくれる大切な記憶。(家藤)

メルヘンチックで、何と初々しい情景でしょう。初雪の日にはじまった恋。お二人の情景がみえるようです。バックミュージックは、かろやかなピアノでしょうか。(田中)

爽やか。初雪の日に始まる恋の予感。寒さを感じる「滑り台」でのこれからの恋のあたたかさを想像させてくれる。「始まり」「初雪」の頭韻がいい。「h」の音が吐く息のぬくもりを暗示。(田山)

始まりはの書き出し、何が始まるのかと読みたくなる。季語の初雪は初恋を連想し美しい情景が見える。滑り台の取り合わせが幼い頃緊張しながらも勇気を出した気持ちが見事に効を奏し感性に丈た一句である。(吉岡)

優秀賞

ふたりして真珠となりぬ朧月

平本魚水

選評

結婚三十年の記念を真珠婚とも言います。真珠婚との関連付けを強くして読むか否かは読み手に任されるところ。春の潤んだような「朧月」の下の二人。月光を受けて髪も豊かな真珠色の輝きを放っているのかも。(家藤)

「ふたりして真珠となりぬ」の表現が素晴らしい。婚30年の真珠婚というだけでなく、言外に真珠のような光をたたえたお二人の、静かな暮らしぶりを想像します。(田中)

「真珠婚」だろうか。贈り物の真珠と空に浮かぶ朧月がとても美しい。真珠の放つ上品な光が朧月のやわらかい輝きと美しい対をなす。(田山)

真珠婚を迎えられての句でしょう。二人して、は愛の深さの強調と読める。その喜びと幸せ感を朧月の季語にあわせ、二人歩んだ月日を詩情豊かになりぬ、で佳句となっている。(吉岡)

友だちにもどる春夜の口紅をこんなきれいにぬってしまって

夜行

選評

短歌の韻律で紡がれる言葉が艶な作品。「友だち」に戻るはずが、心にはそれを望んでいない部分が潜んでいます。後半のひらがな表記も、ぬるりと零れ出る本音のようで一層艶めかしい。春夜の水気に口紅が煌めく。(家藤)

微妙な女心をうたった作品。友だちにもどってもいつものように口紅をひく。結句の「ぬってしまって」のひらかれた表現に、複雑な気持ちが表れています。(田中)

「友達にもどる」という作者の意志と口紅を「こんなにきれいにぬってしまって」という作者の述懐とが歌に切なさを感じさせる要因。「春夜の口紅」はなんと魅力的なことだろう。今宵友だちにもどるであろう相手にとっても。(田山)

友だちに戻るのは恋の終わり。切ない気持ちを抑え紅をつける女心、きれいに仕上がり未練なのかそれともあらたな旅立ちか、作者の微妙な心理の一刻をとらえた大人の作品である。(吉岡)

下校時の君だけ光る麦畑

宮尾美明

選評

「麦畑」は光の分量の多い季語。黄色く熟した麦が風に揺れると、畑全体が黄金の波のように煌めきます。その光の波の中にいて、麦ではなく「君だけ」が光ると捉える目線。麦畑を背景にしてより強く心理が浮き出ます。(家藤)

麦畑は、恋の舞台にたびたび登場します。この句も「麦畑」によって、歌柄が大きくなりました。(田中)

「麦畑」には恋の成就の比喩が昔から与えられる。下校時の君の姿を光らせた作者の心情が秀逸。無意識のうちにはじまった恋の予感が句の中にあふれる。(田山)

青春の恋の始まり、好きな人と一緒に下校したい!気持ちを抑えて遠くから見る好きな人。だから輝いて見えるのです。麦畑の美しさと重なり純粋に思う気持ちが新鮮で景色と調和した一句である。(吉岡)

特別賞

階段を上がればあなたは降りてきて踊り場は今静かな舞台

堤 善宏

選評

下方向からの動きと上方向からの動き。対応する両者が中央の踊り場で出会う…映像の展開の仕方が劇的です。まるで短い映像コンテのよう。ラスト七音に静謐な神聖さがあります。(家藤)

階段の踊り場ですれ違う時、一瞬胸がときめきますね。「踊り場は今静かな舞台」と表現したところがこの歌の見つけどころです。さあ第1幕の幕開けです。(田中)

素晴らしい邂逅。階段の踊り場が両思いの二人の舞台となった。「踊り場」という語に動きを伴った二人だけの意味が加わった。「静かな」という修飾語が上品な味わい。(田山)

中高生の学校内の階段での様子、上りと下りのすれ違う踊り場での恋心、好きな人と数分の出会いに心躍りときめき言葉がない。嬉しいのに息も詰まるほど青春の瞬時とらえた佳句である。(吉岡)

君が撮った写真はすぐに分かるのよ私がこんなに笑ってるから

岸野由夏里

選評

口語の軽やかさが効果的です。普段口にはしなくても、心の中で温めている感情がぽろっと言葉になって零れ出る。笑顔の理由がとても温かい。(家藤)

好きな人にカメラを向けられるだけで、笑顔がこぼれる。笑顔でいられる幸せな時を、写真を見て再確認した歌。(田中)

下の句の七七が明るくて相手思いの謝意がこもる。いいおつきあいなのだろう。平易な表現に相手への思いやりがにじむ。(田山)

笑ってる自分のこの写真が好き。映した貴方が好きなので、貴方を見て嬉しくていい笑顔ができたのでしょう!自然体で恋の告白を口語調にして明るい作品となっている。(吉岡)

「一目惚れです。」 「初対面なのですみません。」 「だから一目惚れです。」 ハッとした。  あの時二度言われなければ、あなたとの物語は始まらなかった。

すずらん

選評

令和相聞歌は「80文字以内の短文作品」という応募条件に特徴があります。長文の特性を活かして、短いフレーズでの会話を再現。単純だからこそ驚く、稀少な一目惚れ体験。(家藤)

一行詩のような素朴な会話をかさねて恋の物語がはじまったという。キーワードは、「一目惚れ」。
〽恋ひ恋ひて逢へる時だに愛(うる)しき言尽してよ長くと思はば。万葉集の歌が思い出されます。言葉は大切ですね。(田中)

定型短詩ではなく自由詩的な表現が新鮮。なんと劇的な初対面。一目惚れからはじまったドラマ。二度いわれたことでハッとした作者の正直な告白。当初のぎこちなさがやがて潤滑な物語の進行をうんだのだろう。(田山)

一目惚れ、つぶやきのようですが、二度同じ言葉を重ねて強調したことで弾みもあり力強さもある。あなたとの物語は始まらなかった!の一言でストーリのある詩調の作品である。(吉岡)

告白に 既読がついて 深呼吸 目を閉じて待つ 恋の福音

群雲

選評

ここ数年でLINEは完全に市民権を得た生活のツールとなりました。「既読」がついた瞬間。どんな言葉が返ってくるんだろう。恐れと期待が入り交じる時間。訪れるのが「福音」でありますように。(家藤)

ラインで送った告白に既読が付いた。何と返事が来るのだろうかと、ドキドキしながら待っている歌。胸の鼓動が聞こえるようです。(田中)

「コロナゆえはじめてメールで告白した」というのは考えすぎだろうか。コロナ渦だからこそこの歌にうたわれた新たな告白の手法が新鮮に感じた。既読のメッセージを受け取ったあとの「福音」を待つ作者のドキドキ感が「深呼吸」と「目を閉じて」の二語で昇華されている。(田山)

メールの時代を代表したかの恋の始まり、既読がつくか、つかないかまでのドキドキ感と深呼吸の安堵感を。微妙な一瞬をとらえての心模様、目を閉じて祈るように待つメール、臨場感ある句になっている。(吉岡)

初カレを 紹介された 娘から 昔のパパに どこか似ていた

スフィンクス

選評

作者がお父さんなのかお母さんなのかでやや味わいが変わるのが面白い。お母さん目線だとほのぼのだけど、お父さん目線ならやや女々しい…が、それも人間味というやつであります(笑)。(家藤)

娘の初恋の人は父親だと言われる。父親がはじめて意識した男性だからだろう。ちょっとうれしいですね。(田中)

本来なら緊張の内容だけどユーモラスな読後感。作者も幸福感にみたされて、若いときの「パパ」を思い出している。娘さんにとっても作者にとってもいい「カレ」なんでしょうね。「昔のパパに」似ているのだから。(田山)

娘の彼を紹介されたくない、いつまでも娘を愛おしく思う父親の心情を思い、娘からパパに似ていたからの一言で、親子の情愛が伝わり自然な形で気持ちを言い得てる作品である。(吉岡)

いたずらのようにマスクでキスをする

夏舟

選評

新型コロナウィルスに翻弄される2020年ならではの実感。同様の発想の作品も多数ありました。「いたずらのように」が触れ合う感覚のささやかさを表現しています。(家藤)

キスをしたいけど、ちょっと照れくさい。だからマスクごしにキスをする。マスク生活の中で生まれた恋の歌。(田中)

コロナ渦ゆえの熱い展開。今井正監督の映画「また逢う日まで」のガラス越しのキスシーンを思い出した。「いたずらのように」だけど当事者は真剣。「キスをする」という下五にこめられた心情があつい。(田山)

マスクをしてのキスはok? そしていたずらでキスをしたのと理由つけての用心深さは、相手への気つかいでしょうか。季語のマスクは今のコロナ時期も大切、17音に気持ちを入れての句である。(吉岡)

蝶の翅閉じたるやうに君を抱く

クラウド坂の上

選評

繊細な比喩の感覚が魅力の作品。傷つけず、傷つかず、静かにたたまれる「蝶の翅」。その隙間とも言えないような隙間に収まる「君」もまたどんなにか繊細な人でありましょう。(家藤)

視覚的で美しい抱擁の歌。「蝶の羽とじたるやうに」の旧仮名表記が、詩的で格調高い作品にしています。(田中)

蝶の羽は力強く閉じられ、暫しの時間のあと開かれて美しい模様をみせる。また閉じられることもあれば力強く飛び立つこともある。恋人を抱く作者の生命力のように。(田山)

現代は、ハグにも出会った内容や状況でタイプが変わる。この句の蝶の翅が閉じるように静かに優しく抱擁。愛する人への気持ちが十分に伝わる情愛深い佳句である。(吉岡)

逢いたいよ海の彼方の虹わたり

蒼の海

選評

「海の彼方の虹」をどう読むか。遠く異国に離れてしまった相手とも読めますし、死別してしまった相手とも読めます。ストレートな願望の言葉から始まる強さで押し込んでいく一作。(家藤)

逢いたい気持がストレート伝わってきます。コロナ禍で、不要不急の外出を控えているのでしょうか。(田中)

宇多津には海に美しい虹が架かる。上五の「逢いたいよ」の表現が素朴なようで洗練されている。海の彼方の虹に託す恋人への思いが美しくせつない。逢いにお行きなさい、海の彼方の虹を渡って。(田山)

上五で恋しい人に会いたいとの気持ち先に伝えてる。海の彼方で外国だろうか、虹を渡っても会いに行く。若者の力強い意志と勇気も重なり美しい表現の一句になっている。(吉岡)

水族館 混み合う中で 手を握る はぐれぬようにと 言い訳をして

岩本稔

選評

恋愛の場面における普遍的な題材。同様の発想の作品は過去のコンテストでも散見されました。「水族館」の水を通った青い光に満たされた空間が独特な舞台装置となっています。(家藤)

宇多津町にオープンした水族館も大勢の人で混み合っています。はぐれては大変。握った手は離さないでください。(田中)

宇多津に水族館ができた。混んでいる水族館で手を握る二人。「はぐれぬように」は言い訳で「君の手を握りたいんだ」という作者の正直な告白。手を握り合うお二人、どうぞ「四国水族館」で楽しいひとときを。(田山)

昨年オープンした美術館へデート。手を繋いでいたい気持ちを、はぐれないようにと言い訳して手を繋ぐ。若者の恋の始まりを自然体で表現、美術館の場所設定が上手くその様子伺える句である。(吉岡)

元カレの座薬が三個冷蔵庫

板柿せっか

選評

賛否分かれるタイプの作品。個人的にはとても評価してます。「元カレ」の一語でわかる関係性と心理。かつてねじ込んであげた過去もあったのでしょう。冷蔵庫に冷え冷えと残る三つの弾丸に注ぐ視線はなにを思うのか。(家藤)

ドラマの冒頭シーンに使いたいようなインパクトな句。元カレとの様々な場面が想像できますね。(田中)

想像を限りなく広げさせてくれる。作者はなぜ元カレの「座薬」を冷蔵庫に置いておくのだろう。終わってしまった恋の切なさが「三個の座薬」という「置き土産」に帰納。ユーモア漂う中に人生の悲哀まで感じてしまう。(田山)

元彼。別れた彼の忘れ物座薬が、一緒に暮らした部屋の冷蔵庫に置いたままに。捨てられずそのままに。季語の冷蔵庫で二人の感情が冷えたことが協調され作者の心模様が読める。3個にして斬新な句である。(吉岡)

四国新聞社賞

さよならを言うためだけに会いに行く海の向こうの美術館まで

野原いちご

ひとめだけ 逢いたい気持ち 自粛して 夢見し君と 月を見る

おちおちおっち

幾度のがんの手術に耐へし妻その福耳の運を称えむ

岩田 勇

君の手のきゅっと花火の揚がるたび

彼方ひらく

背の低い彼に合う日に履いて行くペタンコ靴も何故か嬉しい

ラブ

四国医療専門学校賞

玄関で「早く会いたかったんだよ」と 教えてくれる 裏返しの靴

秋吉 円

目が覚める 今日また君に 恋をする

すす

アラームを止めるこの手はさっきまで夢であなたに触れていたのに

未瑛

なんとなく 顔を上げたら 目が合って マスクの下の 頬が赤らむ

ポチ

おでんなら、あなたはきっと大根ね。

ちくわぶ

選考委員について

令和相聞歌の選考委員の先生を紹介させていただきます。(50音順 敬称略)

  • 家藤 正人(俳人)
  • 田中 美智子(歌人)
  • 田山 泰三(和歌研究者)
  • 吉岡 御井子(俳人)
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